LOGIN「ああ、うるさいうるさいぞルイーズ。貴様は俺を怒らせるようなことしか言わない。おい、誰かこいつをつまみ出せ! こんなやつ国外追放にしてやる!」
ついに本格的に癇癪を起こしたヴィクトルは越えてはならない一線を越えてしまった。
国外追放、それは王国の中にある刑罰の中でも最も重い罰。それを一人の癇癪ごときで下そうとしているのだ。会場はさらに緊張が高まり、ピリついた空気が広がる。みなが息をひそめる中、ルイーズは変わらず堂々と前に出た。
「ヴィクトル殿下、ご自分がどんな発言をしているのかよく分かっているのですか?」
眉間にしわを寄せながらその笑みは崩さないルイーズ。しかし、彼女の問う声は低く、そこには確かに怒りが込められている。「なぜ俺がそのようなことを考える必要がある。全く、本当に姉弟揃って口うるさいところはそっくりだな。あぁ、弟も追放するか。あいつも目障りだからな」
その時、確かにルイーズの中で何かが切れる音がした。
会場のざわめきはさらに高まりをみせる。ヴィクトルの横暴さに眉を潜めるものがほとんどだが、一部だけ顔を青くする。
一部は気づいているのだ。ルイーズの様子が明確に変化していることに。
ミシミシとルイーズの持つ扇子が音を立てて今にも割れそうになっている。それに気づかぬ者は表立って感情の変化を見せないルイーズを冷酷だと思い、近くにいる者とひそやかに非難する。
「本当にあなたはいつまでもおんぶにだっこで子供みたいなお方ですこと」
兵士たちの手がルイーズの身柄を拘束しようと伸ばされる。しかし、その腕はついぞ届くことはない。
「これはいったいどう言うことだ、ヴィクトル」
威厳のある低い声でそう問いかけるのはこの国の国王である。
さすがのヴィクトルも国王を前にして横柄に言葉を発することはない。「そ、それはルイーズが……」
「ほう、この騒ぎルイーズ嬢も関係しているのか。お前に聞くよりも彼女に聞く方がよさそうだ」先程の態度はどこに言ったのか小動物のように縮こまるヴィクトルはうまく言葉を紡げない。
物言えぬ息子を無視してルイーズに振り替える。国王はルイーズの様子に一つため息をつく。ルイーズは笑みは浮かべているものの内側に宿る怒りを隠しきれていないのだ。
「ルイーズ嬢、主でよければ私にこの騒ぎの全容を報告せよ」
「御意にございます。このルイーズ・エキャルラット、今から報告する内容を一切の嘘偽りなく報告することを国王陛下に誓います」そのよく通る声で宣言された内容に参加者たちは面を食らう。しかし、依然としてルイーズのみが堂々としていた。
狼狽するヴィクトルや小動物のように見つめるミラをちらりと見たルイーズは続ける。
「この騒ぎの起因となったのはヴィクトル殿下の一方的な婚約破棄宣言にあります。そして、騒ぎがさらに大きくなったのは殿下が私たち姉弟を国外追放すると宣言したからです」
簡略に、されど不足しているわけではない。国王が状況を理解するには十分な量の情報を彼女は伝える。 彼女の視界にはヴィクトルのそばで小刻みに震えるミラの様子が目に入る。「ほう、婚約破棄とな」
「殿下曰く、私が彼のそばで侍っているミラ・マルタン令嬢をいじめたことが原因らしいのです。私がマルタン男爵令嬢と対面したのは今日が初めてですが」ルイーズは口元を扇子で隠しながらもう一度二人を見やる。先ほどよりも鋭利で切れ味のあるナイフのように、視線を細めて。
「ルイーズ嬢の言葉のみで判断することは正直難しい。だが、私が学園を訪問をした時に見たのはマルタン男爵令嬢の腰を抱くヴィクトル、お前だ。ヴィクトル、これに異論はあるか」
ルイーズが発した一言に反論をしようとしたヴィクトルは、口をあんぐりと開いたまま、石膏のように固まった。
「ど、どうしてそれを父上が……」
「それでどうなんだ、ヴィクトル。いいか、今恥をかいているのはお前じゃない。お前の茶番劇に付き合わされたルイーズ嬢の方だ」実の父親に醜いものでも見るような目で見られたヴィクトルは顔を歪め、ルイーズの方に向き直る。
周囲の者たちは彼がルイーズに謝罪をするかと考えた。どれだけ嫌悪感を抱いているとはいえ、父親の前で、国王の前で常識外れの行動はしない。そう誰もが考えていた。
「ルイーズ、全部お前のせいだ。お前のせいで何もかもうまくいかない。お前の、せいで」
なんと、ヴィクトルはルイーズに向かって拳を握って突進してきたのだ。
いくら非常識なところがあろうとも、女性ましてや婚約者を殴るほど愚かではない。そう考えていた者たちにとって、彼の行動は狂っているとしか思えなかった。
ギャラリーにいる令嬢は甲高い声で悲鳴を上げ、令息たちはその鬼気迫る勢いに腰を抜かす。
いよいよ、ルイーゼが殴られる。殴られたらただでは済まないだろう。
ギャラリーの意思が一つになった、その瞬間だった。「僭越ながら国王陛下、一つ許可をいただけませんか? ……私、腸が煮えくり返って仕方がないのです」
凛とした声がギャラリーに響く。声の持ち主はヴィクトルの拳を難なく受け止めたまま離さない。それどころか、ヴィクトルは彼女の手から離れることができないようだ。
そこに立っていたのは、片手でヴィクトルの拳を受け止めるルイーズだった。
疲労困憊になりかけたヴィクトルとは対照的に、汗一粒も流さず笑みを浮かべるルイーズ。「はぁ、嫡子ではないからと甘やかして育てた私がばかだった。思う存分やってみよ。
国王陛下が手を振り兵を生徒たちの近くに配置する。生徒たちの壁になるように配置される兵士たち。
それを見たルイーズは眼鏡をはずす。その瞬間、彼女の纏う空気が一変する。
今まで纏っていた気配は何だったのかと言いたくなるほど強大で濃密なオーラ。「御意にございます、国王陛下。……それでは、殿下」
「な、なんだ。この手を、離せ」ルイーズは輝くような晴れやかな笑顔を浮かべ、ヴィクトルに向き直る。
彼女の変貌を受け入れられないヴィクトルはその場から逃げ出したくてたまらなかった。 しかし、そのようなことは許されない。「私がいじめていたとおっしゃっていましたが、実際に受けてみます? ……私の拳一発を」
ヴィクトルは火事場の馬鹿力でルイーズから距離を取る。さすがの察しの悪さでも理解できるのだ。自分が踏んではならない爆弾のスイッチを押したことに。
しかし、今更そんなことに気づいたところで、ルイーズは止まらない。
「ウガァッ! ……った、あ、あれ鼻血が止まらない」
鈍い音が響くのと同時にヴィクトルが吹っ飛ばされる。
軽く宙を舞い、地面に叩きつけられたときにはその端正な顔立ちは台無しになっていた。鼻血をたらたらと流し、両頬が大きく腫れ上がり、立ち上がることは出来ないようだ。
「あら、ごめんなさい。拳をふるうだなんてあなたの婚約前以来だから、ついやりすぎてしまいました。でも、骨が折れないようには気を付けましたから安心なさって?」
「き、貴様……!」そう笑う彼女はこの会場の誰よりも堂々としていた。ギャラリーにいる者たちは彼女が一輪の赤薔薇のように華やかで強烈に見えていた。
ルイーズ•エキャルラット。
人呼んで『鮮紅令嬢』は、武闘派揃いのエキャルラット家の英才教育を受けた戦闘の天才である。
ヴィクトルと婚約してからは王家に入ることを踏まえ、あくまでも自衛のための鍛錬しかしてこなかった。本当は実践的な技術を学びたいという思いを閉じ込めながら。彼女はヴィクトルのために頑張る中で、本当はこう思っていた。
『もっと私の力が生かせればいいのに。もっと力を行かせるところに行きたい』
*
「ほう、彼女は折れていなかったのか。――あの頃と変わっていなくて何よりだ」
血が手を染めながらも優雅な立ち振舞いをするルイーズに1人の男がほくそ笑んだ。
その男の名はイヴァン・キリーロヴィッチ・ヴォルコフ。リュミエール王国の隣の大国であるフリーギドゥム帝国を治める若き皇帝。
イヴァンはある思惑を持って、パーティー会場の中心へ足を進める。
あぁ、本当に馬鹿な人たち。ここが何家の家か存じ上げていないのかしら? 王妃は随分と箱入りに育てられていたみたいだけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった。いっそ、憐みも感じてくるわ。 「み~つけた♪ 隠れられると思ったら大間違いですよ?」「な、どうしてここに?! さっきまで、自室にいたはずじゃないのか!」 私が庭の茂みからひょいッと顔を出すと、お化けでも見たような顔で逃げ出そうとする衛兵たち。本当に耐え性がないわね。 あなたたちいつも魔物と戦っているのでしょう? 貴族の小娘を見ただけで泣くなんて軟弱すぎる。 そんなに泣くほど私が怖かったのだろうか? 逃げ出したものの中には――お漏らしをした者もいる。 ちょっとやめてよ、不法侵入しておいて人の庭先を汚すだなんて。「で、でも、無防備な姿で一人、のこのこと出てきたのは俺たちにとって好都合だ!」「あぁ、そうだな。なんて言ったって相手は一人だ。どうにでもなる。」 随分と舐められたものね。彼らは知らないのかしら? 私が卒業パーティーで王子に顔面ストレートを決めたこと。 そして、私が『社畜令嬢』以外にも二つ名を持っていること。 まぁ、生まれたての小鹿みたいにプルプルと震えているところを見る限り知らないわけじゃなさそうだけど。「王妃の可愛い可愛い兵隊さん。悪いことは言いません。早急にこの屋敷から出ていくことをお勧めします。皆さんが今やっていることは不法侵入ですよ~」 私はできるだけ殺気を抑えながら、子を諭すよう彼らに穏やかに告げる。 これで去ってくれるのが一番いいのだけれど。「へ、なんでお前の言うことを聞かねばならないんだ」「そうだ、傲慢なことを言っているみたいだが、俺たちにお前は手を出せないはずだ!」 やっぱり、こう言ってもダメだったみたい。 なんとなく予想で来ていたから、残念だなんて思わないけど。 さっきまでびくびく震えていた癖に、今はもうふんぞり返る余裕まで出てきている
そう胸を張っても、一つ重要な問題があることを思いだす。 他にも問題は山積みだけど、彼とどうこうするうえで重要な問題だ。 私、ルイーズ・エキャルラット、上流とは言え一介の貴族令嬢。 彼、イヴァン・キリーロヴィッチ・ヴォルコフ、私にとって異国の皇帝。 そう簡単に連絡が取れるわけないし、連絡手段が分からない。『また、会いましょう』って言っていたから、会う意思があるのはよく分かる。 でも、どこに行けば会えるって言うんだ。「エキャルラット嬢、今お時間はございますか?」 どこか聞き覚えのある声が窓の外から聞こえるような……。気のせいよね? でも、確かに窓のガラスはノックするリズムと同じタイミングで揺れているから、外に誰かいるのは間違いない。 まさか敵襲?!……なわけないよね。もしそうだったとしたら、片腹痛いわ。 敵陣にノックするなんてどれだけ余裕なの?ってツッコみたくなる。 でも、煽り目的だってこともあり得るから、警戒しておくに越したことないか。「あら、あなたはヴォルコフ閣下の馬車に乗っていた……」「覚えていらっしゃったのですか?それに今はこのような鳥の姿でも分かるのですね。」 「今日会ったばかりではないですか。そんな簡単に人のことを忘れることはありませんよ。確か、あなたはルカさんでしたか?」 恐る恐る窓を開けると、そこには夜と同化しそうなほど黒いカラスが一羽。 そのくちばしから出る声は間抜けた鳴き声ではなく、成人男性の落ち着いた声そのものだ。 「あっておりますよ。私のことを見つめてどうかなさいましたか?」 憑いているって感じはしないし、なにか特別な種の鳥には見えない。 と言うことは……「変化魔法《トランス》ですよね?精度が高くて羨ましいと思って。」「ありがとうございます。おっしゃる通り、変化魔法《トランス》で
「はぁ、渇望ね……」 部屋の中に戻り、ろくに着替えもしないまま、ベッドの上で寝そべりながらイヴァンに言われたことを思いだす。 渇望とはいっても、色々な種類があるわよね? 好きな人に愛されたいとか、お金持ちになりたいだとか。 でもきっと彼が言いたいことはそういうことじゃないし、私自身もそうとは思わない。 現にヴィクトルに婚約破棄された今も、悲しいという負の感情よりも『これからどうしよう』と言った戸惑いの方が強い。「姉さん、帰ってきているのか? いるなら返事をしてくれ」 ドアをノックする音で思考の海から急激に意識が現実へと引き戻される。「入ってもいいわよ。……あら、ジョセフ。あなたまだ顔赤いじゃない。熱は下がっているみたいだけど」 とっ散らかった部屋を適度に整頓してドアを開けるとそこには弟であるジョセフが立っていた。 彼の頬は赤く、熱にでも浮かされているのか心なしかぼんやりとしている。 こんな状態で私の部屋にまで来たのか。歩いてくるのだけでも辛かっただろうに。 とりあえず、部屋の中にある椅子に座らせる。 ドアの前にいた時よりも表情は険しいものではなくなっている。「ジョセフ……」「もう、大丈夫だ。それよりも姉さん、ごめん。俺、あのバカ王子止められなかった。婚約破棄なんて姉さんの顔に泥を塗るような真似をするほど愚かだなんて」 風邪を引いて今日のパーティーを欠席したジョセフにも情報は行っていたのか、がっくしと言わんばかりに頭を下げる。 元から真面目過ぎるというか、マメな性格ゆえに情報を重くとらえてしまうことが多い。 しかし、今の狼狽具合は凄まじいものだと思う。 やっぱり風邪を引いてしまっているのが余計にそうさせてしまっている。 多分生半可なことを言っても絶対に引き下がらないからな。 こういう手段を使うのはあまりよくないけど仕方がない。「顔をあげなさい、ジョセフ。あなたがあの男に関して謝る必要はない。謝るならこっちの方よ。――だって、私殿下のことをぶん殴ってしまったもの」 淡々と彼に告げると、天を仰ぎ見るようにため息をつく。 本当はこんな励ましの中で、言うつもりは全くなかった。 でも、仕方がないのだ。 きっとあのまま曖昧な態度でジョセフに何か言っても顔をあげることはない。 頑固なジョセフのことだ。 このままでは
なぜ、今私は馬車に揺られているのだろうか……。 しかも、先ほど求婚してきたフリーギドゥム皇帝、イヴァンの馬車だ。 彼に求婚されてからしばらくの記憶がない。 しばらくと言っても、ここ一時間か二時間ぐらいのことだけど。 何か変なこと、起こっていないよね? 「緊張でもしているのか?何、そう縮こまる必要はない。俺の隣にでも来るか?」「いいです。ただでさえ、馬車に乗せてもらっているのだから。そこまで甘えることはできません」「そうか……」って捨てられた子犬のように肩を落としているがそんなに悲しかったのか? 彼が自分自身の馬車なんだから、自由に過ごすのはよくわかる。 でも、私は乗せてもらっている立場なんだからそんな失礼なことできるわけない。 そもそも、異国の皇帝と馬車に揺られているという異常な状況で安らぐことなどできるわけがない。 ましてや、『冷血皇帝』と恐れられる男の馬車なのだ。 何か粗相があったとしたら、今度こそ私の人生は終了するだろう。「わ、分かりましたわ。少しはしたないですが、足を伸ばしてもいいですか?」「あぁ、別に作法とかを俺は気にせぬ。古臭い慣習などあったって無駄だからな」 窓の外を懐かしむように見つめながら、そう零す彼はとても冷酷には見えない。 本当に彼は『血も涙もない冷酷さ』を持つとされる男なのだろうか?「俺をそんなに熱烈に見つめてどうした?」 き、気づかれていた。 ただ何となく目の前の彼が気になってしまったから、見ていただけだけど。しかも、熱烈だなんて。 私、そんなに彼を真剣に見ていたの? そんな不毛なことを考えながら恐る恐る足を伸ばす。 足が向かい側に座る彼の横に当たらないのか不安だったけど、全然大丈夫みたいね。 今日はヒールを履きっぱなしだったし、少し足が疲れたからもう少し伸ばそう。「そういえば、レディはエキャルラット家の
≪ルイーズ視点≫ や、やってしまった。どうしよう、もう取り返しがつかないよ。 いつか自分でもやらかしてしまうかと思っていたけど、ついにヴィクトルの顔を殴ってしまうとは。 しかも、綺麗な顔面ストレートを決めるだなんて。二発決めちゃったよ、どうしよう。 このパーティーが始まる前の書類仕事による疲労ですべてを投げ出したいと思っていた私に予想できただろうか、いや、できない。「ひ、ば、化け物」 「王子をあんなに容赦なく殴るなんて。何をしていたらできるんだろうな。」 当たり前のことかもしれないけど、周囲から刺さる視線がとても痛い。恐怖する者が多くを占めているけど、令嬢の何人かは眉をひそめているわね。「暴力に走って下品ですこと。私たちには到底できない真似ですわね」 「やはり、エキャルラットの者たちはみな野蛮なのね」 彼女たちの視線の意味はよく分かる。上位貴族とはいえ、一介の貴族令嬢がどんな理由であれ王子を殴ったもの。不快なものを見るような視線を向けたくもなるわ。 でも、私は私のした選択を別に後悔していない。それどころかむしろ、考えうる中で一番ましだった結果だと思える。 あの時、ジョセフが――私の弟が理不尽な理由で、国外追放だなんて過分な処分を下されるのはどうしても耐えられなかった。 タイミングよく国王陛下がいらっしゃらなかったら、多分もっと過激な手段を用いてしまっていたのだろう。 そして、本当に国外追放あるいは極刑に処されてしまうだろう。 そう考えるだけで本当に寒気がする。私の人生を棒に振るのは構わないけど、家族の人生まで棒に振るのは嫌だ。「お、お前父上がいくら許可したからと言って無礼だぞ!やはり、お前のような奴はこの国にはおけない。え、衛兵、この女をつまみ出せ」 「し、しかし、ヴィクトル殿下……」 衛兵が私に震えながら近づこうとするが、彼らの動きはのろまでキレがない。故に避けることなど、私にとって造作もないのだ。そもそも、ほとんどの衛兵たちは棒立ちのままだし。「な、なぜ動かぬのだ。こののろまどもが……!」 「殿下、今ここにいる人間の中で一番偉いのはあなたではなくてよ。その人間が沈黙を保っているのだというのに、衛兵がろくに動けるわけないでしょ?」 その証拠にほら、小刻みに震えながらも頷く衛兵が何人もいるでしょう? 国王もため息
「ああ、うるさいうるさいぞルイーズ。貴様は俺を怒らせるようなことしか言わない。おい、誰かこいつをつまみ出せ! こんなやつ国外追放にしてやる!」 ついに本格的に癇癪を起こしたヴィクトルは越えてはならない一線を越えてしまった。 国外追放、それは王国の中にある刑罰の中でも最も重い罰。それを一人の癇癪ごときで下そうとしているのだ。 会場はさらに緊張が高まり、ピリついた空気が広がる。みなが息をひそめる中、ルイーズは変わらず堂々と前に出た。「ヴィクトル殿下、ご自分がどんな発言をしているのかよく分かっているのですか?」 眉間にしわを寄せながらその笑みは崩さないルイーズ。しかし、彼女の問う声は低く、そこには確かに怒りが込められている。「なぜ俺がそのようなことを考える必要がある。全く、本当に姉弟揃って口うるさいところはそっくりだな。あぁ、弟も追放するか。あいつも目障りだからな」 その時、確かにルイーズの中で何かが切れる音がした。 会場のざわめきはさらに高まりをみせる。ヴィクトルの横暴さに眉を潜めるものがほとんどだが、一部だけ顔を青くする。 一部は気づいているのだ。ルイーズの様子が明確に変化していることに。 ミシミシとルイーズの持つ扇子が音を立てて今にも割れそうになっている。 それに気づかぬ者は表立って感情の変化を見せないルイーズを冷酷だと思い、近くにいる者とひそやかに非難する。「本当にあなたはいつまでもおんぶにだっこで子供みたいなお方ですこと」 兵士たちの手がルイーズの身柄を拘束しようと伸ばされる。しかし、その腕はついぞ届くことはない。「これはいったいどう言うことだ、ヴィクトル」 威厳のある低い声でそう問いかけるのはこの国の国王である。 さすがのヴィクトルも国王を前にして横柄に言葉を発することはない。「そ、それはルイーズが……」「ほう、この騒ぎルイーズ嬢も関係しているのか。お前に聞くよりも彼女に聞く方がよさそうだ」 先程の態度はどこに言ったのか小動物のように縮こまるヴィクトルはうまく言葉を紡げない。 物言えぬ息子を無視してルイーズに振り替える。国王はルイーズの様子に一つため息をつく。ルイーズは笑みは浮かべているものの内側に宿る怒りを隠しきれていないのだ。 「ルイーズ嬢、主でよければ私にこの騒ぎの全容を報告せよ」「御意にございます。この